前編-----
銀座の一流店で修業し、恵比寿の京懐石の店を譲り受け店主となった片山清光さん。趣味の茶道と書道を生かしたおもてなしで、大人のお客様に支持されている。
精進料理の技で野菜の色と味を生かす
今回、片山さんには料理教室で好評だったものも含め、特別に10品を製作いただいた。ここでは6品をピックアップしてご紹介したい。
まずは、精進料理の「かぶのすり流し」と「野菜の白扇揚げ」。
かぶに使うだしは昆布のみで取る。一晩水に漬けた昆布を水ごと火にかけ、“沸騰手前で取り出す”というのが一般的なセオリーだが、手前の見極めは?
「湯がグラグラし始めた状態では行き過ぎ。昆布を箸でおさえてみて、その縁から気泡が多く出てきたら、取り出すタイミングです」
野菜の美しい色を生かす白扇揚げの白い衣は、片栗粉と泡立てた卵白を合わせる方法もあるが、精進料理では片栗粉と薄力粉を使う。先に片栗粉を水で溶いてから薄力粉を混ぜ合わせることで、油はねがほとんどない衣になるそうだ。
「天ぷらほど神経を遣わず、ダマがなくなるまで混ぜてしまってOK。ご家庭でも気軽に作れます」
「穴子白煮」は、その名の通り、淡い色合いに仕上げたい。醤油は京都の「澤井醤油本店」の淡口(薄口)醤油を使う。この料理に限らず、多くの料理に淡口醤油を用いるそうだ。
穴子の皮目に熱湯をかけて氷水に落とし、ぬめりをこそげ取る際は、包丁の背ではなく「鉄板焼きのヘラが便利」とのこと。
濃厚なタレではない分、先に炭火で軽くあぶって香ばしさをつけるのが美味しさのポイントだ。
「アジの棒鮨」は、肉厚で脂がのっている富山産のアジをおろして塩をした後、酢締めに。
「せいごを取る際は、身を傷つけないよう注意を払い、繊細に包丁を当てます。酢はあらかじめ冷やしておくと、後でアジの皮をスムーズにはぐことができます。今日は三杯酢に漬けたおろしショウガを中に入れますが、ユズやゴマをご飯に混ぜても美味しいですよ」
茨城県産の鴨むね肉は、皮目をこんがりと焼いてから、醤油などの調味料とともに蒸し煮に。「冷めてもしっとりやわらかいので、和食の冷菜として使えます」
そして、同店らしい和菓子の一品は「黒糖饅頭」。黒糖、上白糖、水、薄力粉と上用粉(うるち米原料の粒子が細かい粉)で皮を作り、こしあんを包んで蒸し上げる。
「皮が乾きやすいため、包む作業はできるだけ手早く行う」のがコツとのこと。片山さんは瞬く間に1個、また1個とこともなげに包んでいくが、そうなるには、やはり地道な修練が必要だ。
40年前の和服、20年前の洋服
片山さんは29歳で結婚し、37歳の今は2人の男の子の父親でもある。
仕事と茶道、書道に関するもの以外、例えばプライベートでのファッションには興味がなく、お金をかけない。
昔とほとんど体型が変わらないため、「高校時代からはいていたズボンがとうとう破れてしまいました(笑)」。靴も履き潰すまで1足で通すため、見かねた先輩がスニーカーをプレゼントしてくれたそう。

「赤坂おぎ乃」の荻野聡士さんがプレゼントしてくれたナイキのスニーカー。「結局、こればかり履いています」
お茶会や稽古で着る着物は何着かあり、写真は、祖父から父へ結婚時にあげた羽織とのアンサンブル。40年間、父は一度も袖を通していなかったものをもらった。少しサイズは小さいが、気に入っているという。
普遍的な美味しさの本質を捉えられる料理人を目指して
最後に質問。——— あなたにとって“美味しい”飲食店とは?
「そうですね……自分が食べ手としての経験で言えば、記憶に鮮やかに残る店、でしょうか。半蔵門の「鮨 みずかみ」のアジ寿司や、日本橋兜町の「アサヒナ・ガストロノーム」の茄子の前菜など、今でもはっきりとその美味しさが口の中で思い出せて、その時の情景が脳裏に浮かんで色あせない。本当に素晴らしいお店だと思います。
ただ、これを言うとまるで矛盾してしまうかもしれませんが、自分の目指す店は、一皿で感動させる店ではなくて、極端な話、料理は店のごく一部でしかないとさえ思っています。なぜだか落ち着く。ほっとする。気を楽にしてゆったり過ごせる場所。そんなふうに感じていただけたら、うれしいですね」
日本料理は先達による長い歴史があり、「20年弱しか経験していない僕が、自分の料理を語るのはおこがましい」と片山さん。その謙虚でやわらかな物腰が、食通にも食べ慣れていない人にも、リピートしたい気持ちにさせるに違いない。
「何百年の時を経た骨董品を、当時の人も現代の自分も美しいと思う。美しいものや、美しいと感じる心は、いつの時代もそんなに大きくは変わらないのではないでしょうか。
料理も同様に、古典的な技術や料理が今日まで続いているのは、それが美味しく、理にかなっているから。その普遍的な美味しさの本質を捉えられる、ブレのない料理人を目指したいです」