前編-----
新宿で酒店を営む家に生まれ、割烹やミラノの寿司店、東京のイタリアン、スタンディングバーなど多業態で経験を積んで独立開業。新宿で11年繁盛店を営み、恵比寿に移転した。
具材とタレの妙味、看板料理の水餃子
最初から看板料理を意識して開発したのが水餃子。きっかけは、中山さんが餃子をつまみにお酒を飲むのが好きだからだそうで、オペレーションや味の展開なども考えると、焼き餃子よりも水餃子が向いていた。
時期により多少異なる3種類を常備し、例えば「豚肉と蓮根、紫蘇の水餃子 赤だしと焦がし生姜の特製タレ」「海老とディルの水餃子 特製檸檬醤油と台湾風唐辛子オイル」「ラムスパイスの水餃子 胡麻とニラ醤油のペースト」といった具合に、具材とタレの妙味で食欲を誘う。
「2個800円〜という価格に納得していただけるものを考えている」と話す。目論見通り、ほとんどのお客さんがオーダーする人気メニューだ。
また、中国と日本の2種の黒酢と黒糖を使った「漆黒の角煮」や、蝦子麺(海老の卵入り麺)の「汁無し香港海老麺」もオープン当初からの定番料理。
パテやレバームース、ピクルスなど、さっと提供できるつまみから、新鮮なイワシのカルパッチョに焼き茄子のソースと発酵トマトソースを添えたもの、タラの芽と芽キャベツのフリットにオリーブパウダーと自家製デュカをふったもの、南イタリアの生サラミ「ンドゥイヤ」の風味を生かしたヤリイカと和牛トリッパの煮込み、トルコの揚げ春巻き「シガラ」など、あれもこれも頼みたくなるメニューが並ぶ。締めにはパスタ、デザートが数品。
自然派のオレンジワインを中心とした日替わりのグラスワインを各種用意し、ビール、クラフト焼酎、日本酒、ハイボールや、ノンアルコールでは自家製コンブチャなどもある。
お客さんの85%くらいが女性で、30〜40代が中心。平均客単価は約9,000円だ。
鹿肉に発酵白菜、ホタルイカにビーツとヨーグルト
今回、作っていただいたのは5品。
まず、看板料理の水餃子を鹿肉でアレンジしたもの。具材は鹿肉ミンチに発酵白菜、フェンネルシードを合わせ、上からかけたタレは焼きナス。焼きナスといっても、ハーブやクミン、E.V.オリーブオイルなどを加えたエキゾチックな味わいで、仕上げのE.V.オリーブオイルでコクと喉越しをアップ。
ビーツなど赤い野菜のサラダとホタルイカのレモンマリネには、ギリシャのザジキのようなキュウリ入りヨーグルトソースを添えて。混ぜ方の加減によって味の変化が楽しめる。
「オイルにスパイスの香りを移し、野菜を加えるごとにひと塩してじっくり加熱し、仕上げに赤ワインヴィネガーと、ビーツの皮をゆでた赤い汁を加えて、油分と水分が乳化したドレッシングのような状態に調整するのがポイントです」
つい、料理のユニークさに目がいきがちだが、発想だけでなく、そうしたプロセスの丁寧さやタイミングの見極めがベースにあるからこそ、プロのクオリティとして差がつくのだ。
三陸カキを使ったグラタンは、発酵キャベツとモッツァレッラの組み合わせ。カキは先にさっとソテーすることで香ばしさをつけ、味を凝縮。キャベツは塩水で乳酸発酵させることにより、うま味と栄養価を高めている。
モッツァレッラは新鮮でミルキー感たっぷり、「ラッテリア・ベベ鎌倉」の製品だ。
BASE-CHICでは高加水タイプの自家製パンを提供し、テイクアウト販売も行っている。通常は強力粉で作るが、今回は強力粉、中力粉、全粒粉を合わせて使用した。砂糖の配合を多めにすることで、しっとりとして甘味を感じる仕上がりに。
最後の1品はパンツェロッティ。プーリア地方の揚げパンで、トマトとモッツァレッラ、リコッタとほうれん草など各種あるが、中山さんは甘いタイプとして現地で人気のヌテラ(ヘーゼルナッツスプレッド)に。マスカルポーネやレモンの皮、アマレットリキュールを少量加え、味にメリハリをつけている。
料理を通して自分にできることを模索
直感を信じて現在の立地を選んだ中山さんだが、新宿時代とは異なり、開業当初は集客に苦戦したという。店舗営業以外での売り上げを考え、お弁当を販売するようになった。
「知り合いのスタイリストから、「お弁当やケータリングをやって」と言われたのがきっかけです。場所柄、撮影スタジオやアパレル関係なども多いので、次第に口コミで広がりました。
コロナ禍を機に、インスタグラムに専用アカウントを設けました。1人前のお弁当なら7個より、3日前までの受注で対応しています。バイク便で配送、または店頭で引き渡す形です。
ごはんのお弁当に限っては、おかずも和食を主体にしていますね。理由は単純で、冷めても美味しいから。野菜を豊富に使い、彩りよく盛りつけることを心がけています」
デモストレーション&食事提供形式の料理教室も、不定期ながら行っている。最近はOEMのクッキー製造も手がけている。
「お弁当は、仮に大量に徹夜で作るとなっても、ゴールがはっきり見えているから僕には苦痛ではなく、むしろ楽しい。
しかし、予測できない来客数に一喜一憂するのは、とてもストレスなのです。お酒を飲む人の数も減っており、飲食店が生き残る道はますます険しい。
だから、料理を通して自分にできることを常に模索していますね。例えばこの店を仲間とシェアして、自分はさらに別の料理の仕事をするというのも、これからの時代はアリかもと思ったりしています」
最後に質問。——— あなたにとって“美味しい”飲食店とは?
「長年勤務している信頼のおける人がいる店ですね。シェフに限らずサービスの人でもいい。
いつもの顔が見られれば安心するし、その素敵な人が辞めずにいるということは、従業員にとっても居心地のよい店を意味するわけで、おのずと店によい気が流れていると思います」
中山さんの休日は、そうした美味しい店に食べにいくことに加え、「友人と集まってホームパーティーを開くことが多い。
作るのはやっぱり僕が担当。さまざまな職種の人の話を聞いて刺激を受けるのが好きです」という。公私ともに“夜台所”に立つ中山さんであった。


