清流と山あいが育てた、「天城軍鶏」の冴えた旨み

清流と山あいが育てた、「天城軍鶏」の冴えた旨み

2026.02.12

  

しっかりとした歯ごたえ。その後にじわりと滲むコク。肉本来の野生味を湛える「天城軍鶏」にいち早く反応したのは、フレンチのシェフだった。

「炭火焼の試食をした料理人から『飲み込んだあとに香りが広がる』と言われました。おいしさには、そんな視点もあるのだと驚かされましたね」と3代目オーナーの堀江利彰さんは、そう振り返る。

繊細な火入れで肉質の差が際立つ現場で腕を磨いてきたスペシャリストだからこそ、個性をすぐに見抜けたのだろう。今ではイタリアン、焼き鳥職人、料理家などジャンルを越えた熟練者が信頼を寄せる。

一年を通じて潤沢な水が流れる狩野川のほとりに位置。

余韻を生むのが、伊豆の自然環境だ。

東京都心から車でおよそ2時間半。伊豆半島の中央、天城山系の山あいで「天城軍鶏」は平飼いされている。鶏舎の脇を流れるのは、ワサビも育つ清冽な狩野川。その水と澄んだ空気のもとで、軍鶏はゆっくりと成長する。

「中山間地域特有の寒暖差によって、きめ細かく引き締まった肉質が生まれます。雄は110〜140日、雌は120〜150日で出荷。45日くらいで市場に出るブロイラーと比べて3倍近い時間をかけています」


頭頂部に白い毛が混ざっているのが雄。 

生まれてから25日くらいまでは雄雌ともに過ごし、その後は別々の小屋へ移される。
雄が集まる一室では、縄張りをめぐる鳴き声が絶えない。


堀江さんは生後3日の雛がいる鶏舎から案内してくれた。黒系軍鶏と横斑プリマスロックの掛け合わせである「天城軍鶏」のヒヨコの毛並みは黒い。

「ここにいるのは1200羽ほど。まだ自力で体温を保てないので、少しでも室温が下がるだけで暖を求めて重なり合います。すると、下敷きになった個体が窒息してしまうこともある。そうならないよう、温度管理を徹底しています」

そこからおよそ1ヶ月。産毛が生え変わるくらいに成長したら、雄と雌ごとに4グループに分けて広い小屋へ移す。一室あたりの最大収容数は300羽と定めている。

「採算だけを考えるなら、もっと密度は上げられます。でも、そうすると動きは制限されてしまう。腸の短い特性上、排泄頻度も多い。ぎゅうぎゅうでは、当然、においも強くなります。そんな環境からおいしい肉は生まれないでしょう」

言われてみると、見学した鶏舎は風通しがよく、鼻をつくにおいもなかった。

 

オーナーの堀江利彰さん。狩野川を一望するためにコテージをDIYしたそう。


伊豆の恵みを糧にして

飼育環境を整えることと同じくらい、体の内側をどうつくるかも重要だ。餌は近隣で獲れた米にゴマ、大豆などを混ぜて与える。この内訳がさっぱりとした風味とクリーム色の上質な脂を生む秘訣である。

「70日目からはワサビ葉も加えます。肉質の向上というよりは、腸内環境を良くするため。ただ、ストレスフリーなので、おなかの調子が乱れることはほとんどないですけれどね」

そうして120日を過ごした雄の小屋を覗くと、エネルギーに満ちていた。

「みんな、顔まわりが赤いでしょ? これこそが健康の証なんですよ。また、鶏はイライラすると近くにいるものの腰周辺をつつきます。攻撃によって羽がはがれるなんていうのもあるのですが、それもありません」



 

平成への移行と同時に、独自の銘柄鶏を育成

敷地内にはレモンや梅が実り、狩野川のほとりには榎が立つ。養鶏場のシンボルであるとこの木は、軍鶏の快適な暮らしを支える。

「一年を通じて晴れた日は10時くらいから15時頃まで日差しが降り注ぐんですよ。夏の正午ともなると周囲は酷暑となりますが、木陰に覆われた鶏舎には川風も入ってくるので涼しい」

たわわに実るキンカンに見惚れていると「先代が植えたものなんですよ」と教えてくれた。「堀江養鶏場」が開かれたのは今からおよそ70年前、卵農家の祖父が立ち上げた。利彰さんの父にあたる2代目が家業に合流したところでブロイラーの肥育に乗り出し、1989年に銘柄鶏の生産へと舵を切った。自社ブランドを打ち出すにあたり、この地で育ったものだとひと目で伝わるよう「天城軍鶏」と名付けた。

 

 

利彰さんが代表を引き継いだのは、およそ20年前のこと。それまでよその養鶏場で研鑽を積んだというわけではなく、大分県の由布院で和太鼓を製造し、演奏活動もしていたそう。

「軍鶏だけに絞って10年くらいが経過した頃、伊豆に戻ってきました。私が携わるようになってから、餌を変えました。上質な肉に必要な栄養を取り入れるなら、地元の土と水が実らせた作物を与える方が自然じゃないですか」

飼育法を見直すなかで、もう一つ、課題と向き合うことになる。

「どれだけ手をかけても、加工や流通の段階で品質が揺らいでしまうこともあります。それならば、自分たちで最後まで責任を持とうと思ったんです」


時間をかけて仕上げた「天城軍鶏」を最良のかたちで届けたいという思いから、2006年には養鶏場から車で5分ほどの距離に加工場も設けた。飼育から屠鳥までを一貫して行う。


土曜日以外は稼働する加工場では1羽ずつ丁寧に手作業で解体する。取材で訪れた日は51羽を出荷。

 

「できるだけ新鮮な状態で味わっていただきたい。だから、注文を受けた分だけを毎朝8時にしめています。内臓を取り出した丸鶏は冷蔵庫で数時間休ませます。食べ頃を見計い、その日の夕方にチルドで発送します」

成長から食材へと完成させる最終工程までを、自ら担う。その姿勢が料理人の心を打つ。



重宝されづらい雄の魅力も伝えていく

「軍鶏肉において需要が高いのは、脂の乗ったやわらかな肉を持つ雌です。雄は出汁で活用されることが多いです。そのため、ヒヨコの段階で選別される割合も高い。でも、私はそれぞれに長所があると思っているので、分け隔てなく育てて、流通させています」

鋭いくちばしと強靭な足腰を持つ雄。闘鶏由来の特性から、胸や脚の筋肉が発達している。だからこそ、弾力のある食感と濃厚な旨味が堪能できるのだ。

「雌と比べて香りも強く、軍鶏の特性が際立つのが雄です。初めての飲食店から『まず1羽ください』と注文をいただいても、雄と雌の丸鶏を渡すようにしています。自身の料理とどちらが合うかを見極めてほしいから」

ほかにも選ぶポイントをたずねると。

「雄肉を扱ううえでは顧客の年齢層も重要ですね。高齢の方が中心を占めるようでしたら、特有の歯ごたえはハードルになる可能性もあります。ちなみにフレンチのシェフは、メニューに応じて使い分けているそうです」

やっぱり旬は脂の乗った冬になるのだろうか。

「あえて季節を挙げるとすれば、夏です。気温の上昇に反比例して食欲と水分摂取量は下がっていきます。脂の落ちた肉は淡白な口当たりで、ナスやキュウリなどの夏野菜との相性がいい。どうしても、ジューシーなものを想像してしまいがちですが、軍鶏はこってりと仕上げるものではないんですよ」

最後に、「天城軍鶏」の個性が際立つ一皿を聞いた。

「それはやっぱり“焼き”ですね。できれば、塩だけで味わってみてほしい」

 

ライター 松岡 真子 / カメラマン 宇秋 智康 

堀江養鶏

静岡県伊豆市・天城山麓で軍鶏の生産から加工までを一貫して行う。養鶏場としては稀な自家処理場を持ち、トレーサビリティを徹底。注文後に仕上げることで、鮮度の高い状態で届けている。

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