手抜きではないシンプルさ。
料理とワインが優しく共鳴。
品川区の最西端で目黒区との境に位置する東急目黒線・西小山駅。
駅周辺は下町情緒の残る商店街で、通りを抜けるとすぐに住宅街が広がる。
その一角、昭和レトロのタイル壁の建物1階にあるのが「winebar WEST(ワインバー ウエスト)」だ。
木製の小ぶりなドアと小窓が並ぶ外観は、可愛らしいカフェのような雰囲気。
ドアを開けると、小窓脇のオープンキッチンに立つオーナーシェフの仲西正和さんが笑顔で迎えてくれた。
開業はコロナ禍の2021年、東京オリンピック開幕前日の7月22日とのこと。
カウンター席に腰を据え、仲西さんのこれまで辿ってきた道や店づくりについて話を聞く。おすすめのナチュラルワインと料理をいただきながら。
ヴィンテージインテリアでなごみの空間
店を開業するにあたり、「西小山という土地をよく知っていたわけではない」と話す仲西正和さん。ただ、住み慣れた目黒区祐天寺から近く、また、各停の小さな駅で、同業態店はほとんどなく、物件は駅から近いが住宅街にあるレトロな建物といった、いい意味での“ちょい外し”が決め手となった。

「物件は寿司店をスケルトンにした状態でした。ドアと小窓はあえて味のある木製にして、古い真鍮の建具をつけました。奥に長い構造で、手前をオープンキッチンとカウンター7席にして、デザイナーの提案でワインカーブをイメージしたアール天井に。
室内全部を洞窟みたいにしてしまうとクセが強すぎるし、バーとしてだけでなく食事も楽しめる店にしたかったので、奥は少し雰囲気を変え、天井はフラットでテーブル3卓を配置しました。初来店の方はいきなりカウンターだと緊張するかもしれないので、テーブル席に通すようにしています」
カウンターの天板やペンダントライトの仕入れ先は、古材や古道具をレスキューして新たな製品としてよみがえらせる「ReBuilding Center JAPAN(リビルディングセンタージャパン)」(長野県諏訪市)。
ライトのシェードはもともとガラスの小鉢だそうで、そうした古い和のものを取り合わせることで、ほっこりとした温かみのある空気感を醸し出している。
そうそう、カウンター隅にある1970年代のスウェーデンのテーブルランプも、微笑ましいフォルムでなごむ。
テーブルランプは目黒通りのヴィンテージインテリアショップ「FILM(フィルム)」で見つけた。
「店名も、たとえば“仲西ワイン食堂”のように気取りがなくわかりやすいものがいいなと思い、西小山と仲西をかけて“ウエスト”に。
フランス語のスペルだと読み取りづらいので英語にしました。ただ、それだけだとあまりにシンプルすぎるうえ、同名店も多いので、うちは“ワインバー”とセットで正式名にしました。これなら検索ですぐにヒットしますから」
最近、仲西さんが手作りした看板。
ラガーマン→アパレル→料理人
仲西さんは三重県南部、世界遺産の熊野古道で知られる熊野市の出身。子どもの頃は、自分が料理人になるとはまったく考えていなかったそうだ。

「海で投げ釣りして、キスとかアオリイカなんかを釣ったりして、今にして思えば贅沢な環境でしたが、当時はただ海と山しかない田舎だなあと思っていました。学校では、クラスのイケてるグループを心の中でうらやましく思うシャイな性格で、逆におちゃらけて笑いを取るような感じでしたね。
中学・高校はラグビー漬けの日々を過ごしました。『ラグビーマガジン』を愛読し、試合も録画して観て、どこの学校の誰々選手の体格はこうで、などとデータを分析するくらいのラグビーオタク。将来はラグビー選手かラグビー関連の仕事に就くのが夢でした。
スポーツ推薦で名古屋の大学に入りましたが、寮暮らしで先輩から遊びに誘われ、勉強がおろそかになり、結局3年で辞めてしまいました。アルバイトはコンビニくらいで、飲食店で働いたことはなく、料理人になるとは想像していませんでした。
たまたま名古屋のセレクトショップ“ビームス”に勤めている友人がいて、おもしろそうだったので、1年半ほどそこで働きました。田舎育ちゆえ、おしゃれやかっこいいものに対するあこがれが子どもの頃から強く、だからとても楽しかったですね。シャイな性格も接客で鍛えられました」
ひょんなことから縁あって、岐阜の和食店で料理人の見習いを始めることに。山菜採りやアユ釣りなどの材料調達に始まり、さばいたり串打ちしたりの下ごしらえ、煮物・焼き物まで料理の基礎を1年半学んだ。
次に働いたのは同県内のイタリアンレストラン。本格的なパスタの味に感激し、プロの料理人として生きていく覚悟ができた。2年勤めた後、さらなる刺激と向上を求めて上京する。

人との出会いが何よりうれしい
東京での最初の店は中目黒のカフェで、シェフを3年務めた。その頃、仲西さんはナチュラルワインを飲むようになり、体に染みわたるような美味しさや、ナチュラルワインを提供する店の醸し出す雰囲気に魅了され、その代表格ともいえる紺野真さんの「uguisu(ウグイス)」で1年半、丸山智博さんの「メゾン サンカントサンク」や「AELU(アエル)」で計2年6カ月働いた。
「それぞれオーナーのパッションとセンスに大変刺激を受けました。僕はアパレル時代に接客の重要性を体感していたので、飲食業も同様だと思い、料理だけでなくサービスの仕事もやらせてもらいました。
その後、今は清澄白河ですが当時は神田にあった“The Blind Donkey(ザ・ブラインド・ドンキー)”に入りました。カリフォルニア“シェ・パニーズ ”の料理長だったジェローム・ワーグさんと、原川慎一郎さんが手がけた店で、外国人のお客さんが大勢来店して毎日賑わい、キラキラ輝いていましたね。
しかし、ほどなくコロナ禍に突入して店の経営体制が変わり、結果的に8カ月で去ることになりました。
ウグイス時代の先輩、松岡悠さんが世田谷区豪徳寺“ketoku(ケトク)”を営んでおり、そこで僕の名前でポップアップのワインバーをやらせてもらううちに、独立を決意したのです」
2021年7月22日に開業。時短営業を余儀なくされ、不安なスタートにもかかわらず、雑誌やSNSで「コロナ禍にオープンした店」「注目のエリア 西小山」などの特集で頻繁に取り上げられ、客足は順調にのびていったという。

現在、調理は仲西さんが一人で行い、サービスは1名(週末は2名)の体制。ワインはフランス産の自然派で、料理はアラカルトだ。
主な客層は6割が女性で20代後半〜30代前半が中心と、意外にも若い世代が多く、ナチュラルワインへの関心が高いという。
また、最近は韓国や台湾などアジア圏のインバウンド客も増えてきた。韓国の同業者がたびたび訪れ、やがては現地でのコラボイベント開催にもつながった(詳細は後編で)。
「決して出会えなかったような方たちと会い、何かを一緒に生み出す関係を築けること。生産者や業者など、日頃お世話になっている方が来店して喜んでもらえたり、昔の友人や知人がうわさを聞きつけて来てくれたり……店をやっていて何よりうれしいのは、そうした出会いや再会、人とのつながりですね」
ワイングラスは「シュピゲラウ」。店名ロゴを入れている。グラスワインは約7種1,100〜1,800円、ボトルは8,000〜1万円が多く揃う。
後編-----
和食やイタリアン、フレンチビストロで培った技術で素材をシンプルに生かすウエスト流料理の紹介、そして最新の韓国イベントやプライベートの趣味についてお伝えする。
後編はこちら