【wine shop LUCY&寿司ナチュール】ナチュラルワインと寿司が人をつなぐ。五反田の路地裏に生まれたコミュニティハブ(前編)

【wine shop LUCY&寿司ナチュール】ナチュラルワインと寿司が人をつなぐ。五反田の路地裏に生まれたコミュニティハブ(前編)

2026.09.17


伝説のサービスマンの新境地
A Love of Underground Culture Yummy

JR山手線・都営浅草線・東急池上線が乗り入れる品川区の五反田駅。

古くからの歓楽街と、ITベンチャーの集積地「五反田バレー」などのオフィス街、そして池田山や島津山など閑静な高級住宅街も擁する土地だ。

「寿司ナチュール」は、五反田駅の西側、首都高や大通り近くにありながらも、周辺は静かな住宅街で、五反田駅、東急線の大崎広小路駅や不動前駅のいずれからも500〜600mの距離にある。

「とにかく路地裏」が物件の第一条件だったと語る、オーナーの柳沼憲一さん。
ストレートな店名のとおり、寿司とナチュラルワインの店を、料理を担う吉岡義裕さんとのコンビで2020年に開いた。
その母体は併設の「wine shop LUCY(ルーシー)」。今回のインタビューは2店についてお聞きした。




コンセプトを深掘りするための路地裏

寿司店があるとは思えない、コンクリート壁のデザイナーズ物件。
1階の細いガラス戸が「寿司ナチュール」の入り口だ。軒先の頭上を斜めに横切る外階段で2階へ上がると、そこはナチュラルワイン専門の酒販店「wine shop LUCY(ルーシー)」。

壁一面にワインが並び、フロアの一部は吹き抜けで、寿司ナチュールを見下ろせる。「他にも熟成用のセラーが近所にあって、そうですね、全部で1万本くらい。半年後や、ものによっては数年後など、できる限りベストな時期に提供したいと思うと、ついつい増えてしまいます」と話すのは、両店を経営する柳沼憲一さん。

ワインショップと飲食店を併設して開業することを前提に物件を探した。柳沼さんが希望したのは「東京の西側で、とにかく路地裏」であること。駅前よりも家賃が安い分を価格で還元し、また、近隣の地元の人に喜ばれ、遠方からもわざわざ目指して行くに値する店にしたかったからだ。五反田にしたのはたまたまで、柳沼さんは物件を見るために初めて降り立った。路地裏感とスタイリッシュな意外性が気に入り、即決したという。


海外ワインを置くセラーの壁には関係者のサインがたくさん。取引のある日本の生産者は約40軒、インポーターも40社ほど。1銘柄1本ずつで見やすく陳列してあり、リピーターはどこに何があるか知っているのだそう。


ルーシーの名にはどのような意味があるのだろうか。
「“ A Love of  Underground Culture Yummy”の頭文字を取りました。昔からアンダーグラウンドなカルチャーに魅せられ、“世界を変えるのはマイノリティだ"という言葉を聞いて、長年触れてきた、美味しいものとアンダーグラウンドなカルチャーに対する愛情を店名に込めました」

ルーシーでは、飲食店への卸し、一般のお客さまへの小売り、ウェブ販売を行っている。寿司ナチュールとの関係性は?
「ナチュラルワインを気軽に楽しんでいただけるよう、寿司ナチュールでお食事されるお客さまには、抜栓料として上代にプラス2000円のみで、ルーシーの商品のワインを提供しています。ワイン屋として多くのワインに触れる中から、コンディションを含めて食材に合う1本を選べるのが当店の強みですね。もちろん、コースに合わせた“おまかせ”(ペアリングの意)もご用意しています」


ワイン樽のステーブ(側板)を用いた付け台や、ブドウの枝を束ねたカトラリーレストなど、ワイン愛が伝わるコーディネート。



1500年以上の歴史があり、現在では静岡県西伊豆町田子地区だけで作られている伝統保存食「潮かつお(塩鰹)」。稲わらで飾り、正月の縁起物として神棚に添えられてきた。これは飾りとしているが、実際に料理でもたまに使う。



愛するナチュラルワインと原点の寿司


2026年、50歳を迎えた柳沼さんは神奈川県相模原市の出身。
「僕の父は新聞記者で、後には退職して食品の卸し業をやっていました。子どもの頃、時々、寿司屋に連れていってもらい、僕は“ネギトロをつまみで ”とか言っていたらしい(笑)。それは覚えていないけれど、外食の楽しさは幼い頃から知っていました。父から“男は自分の足で立て”と言われていたこともあり、僕は自立心が強くて、早く一人前になりたいと思っていました。



ただ、最初から飲食の仕事を選んだわけではなかった。バンド活動やサッカー、ファッションなどいろいろなことに興味があって、最初の仕事は家具職人にあこがれてアメリカンアンティークの店に入社しました。

いずれは工房に入れるということでしたが、それまでは販売員の仕事で、元気を持て余していたため、夜は飲食店でアルバイトをしました。結局、2年後にどちらも辞めて、DJバーのバーテンダーとして3年ほど、昼夜逆転の生活を送りました」


次に入ったのが2002年、六本木で創業間もないレストラン「カシータ」。
先輩から声をかけられ、短期の手伝いのつもりだったが、2005年に青山へ移転のタイミングで店長を任され、その2年後には事業拡大に伴い総店長に就任。店の運営のほかにコンサルティング部門、ケータリング部門などにも携わり、結果的に11年の勤務となった。
飲食業界に関わる人であれば、カシータ店長と聞いてピンときた人は少なくないのでは? “マニュアルを超えた感動的なおもてなし” 集団を牽引し、「伝説の店長」「究極のサービスマン」と称された柳沼さんだ。

2014年、経験と実績を糧に、サービス業のクオリティを高めるためのコンサルティングやサポート業務を担う会社、「フラットスリー」を起業(サッカー好きの柳沼さんらしいネーミング)。講師を務めたり、著書『サービスの向こう側』(SBクリエイティブ)を上梓したりと、活動は多岐にわたる。
そして、その先に誕生したのが、ルーシーと寿司ナチュールだ。

「長年、この業界に携わってきて、やはり自分の店を持ちたいという思いがありました。その気持ちをさらに掘り下げていくと、僕が作りたいのは、人々のコミュニティの場だということ。そのツールとして、大好きなナチュラルワインを選びました。しかし、なぜ寿司店?とよく聞かれるのですが、ひとつには、先ほどお話したように、僕の外食経験の原点が父と行った寿司店であること。


寿司との相性を楽しめるワイン例として、柳沼さんにいくつか選んでもらった。左からフランス・ロワールのドゥブーベルタン「アキレ」、ドイツ・モーゼルのレゾム「ベルグ」、イミッヒ・バッテリーベルク「アール・オー・ビー シュペートブルグンダー・ロゼ」、ドイツ・ラインヘッセンのWGシュテファン・フェッター「シルヴァーナー」、長野県・小諸のテールドシエル「ブラン」、北海道・余市のドメーヌモン「ピノ・ノワールAK」。「アキレはヴィンテージ2015年で、カボスやスダチのような酸が日本料理を引き立て、熟成によるストラクチャーが前に出過ぎることなく料理に寄り添ってくれます」。


ワーカーホリックだった父が、“自分の好きなときに好きな寿司を食べに行けることがモチベーションだ”と言っていたことが、ずっと心に残っていました。もうひとつは、日本料理とこのようなワインたちは合うという確信があったこと。

日本料理の世界では、自分好みの酒ありきで、それに肴をあてるという考えであることから、料理とワインが寄り添う方法を和の世界にも取り入れたら、より一層可能性が広がるはずと考えたからです。寿司にワインは合わないのではともいわれますが、樽香が強過ぎず、過度の酸化防止剤や添加物が加わっていない、そんなナチュラルワインはうってつけだと僕は思っています」



プロレスラー志望から和食の道へ


一方、寿司ナチュールの厨房を一手に引き受ける料理人、吉岡義裕さんは柳沼さんの3歳下。新潟県長岡市で生まれ、東京都日野市で育った。今のたくましい姿からは想像しにくいのだが、幼い頃は病弱で、家で本を読んでいることが多かったという。

親御さんは彼に水泳を習わせたり、栄養バランスを考えた手作りの和食を食べさせたりと、どうにか健康になるように必死に努めた。その甲斐あって、中学に入る頃には元気になり、柔道、空手、レスリング、日本拳法など、さまざまな武術にのめり込むほどたくましくなったそうだ。



高校卒業後、プロレスラーを目指してジムに通いながら、中華、ラーメン、菓子店などさまざまな業態の飲食店でアルバイトをする日々を過ごした。

「気づけば20代半ばで、いい加減まともに就職しないとまずいと思い、プロレスラーの道は諦め、料理の道で生きようと決意しました。和食を選んだのは、よその国に行かなくとも本場の料理を学べるじゃないか、という発想です」

渋谷の日本料理店と赤坂の料亭でそれぞれ約3年半ずつ働き、基礎を身につけた。渋谷時代の親方が八芳園(白金台)の日本料理の料理長に就任したことから声がかかり、吉岡さんも八芳園に入り、8年働く。

「宴席の大量調理、縦横の人間関係など、街場の店とは異なる仕事がよい経験になりましたね。私はあくまで日本料理の料理人であり、寿司専門の職人ではありませんが、寿司の仕事もここで携わるようになり、不思議と自分の手に馴染んだというか、やっていて楽しくて。最後は園内の日本料理店の副料理長として、カウンターで寿司会席を提供していました」



その優しい笑顔や物腰は、お客さまと対面するカウンターのサービス経験で板についたのかもしれない(あるいは、生来の性格か)。

そろそろ次のステップに、と考えていたタイミングで柳沼さんと出会い、新店に誘われた。寿司という分野をもっと追求したいと思っていたことや、ナチュラルワインを合わせるのは未知の世界だが惹かれたことから、一歩を踏み出した。



後編-----
ナチュラルワインとの相性を考えたシャリ、食材や調味料へのこだわりなど「寿司ナチュール」の味の骨格と料理の数々、旅を重視する理由を紹介する。
 

後編はこちら

柳沼 憲一/吉岡 義裕

[柳沼 憲一]
1976年、神奈川県生まれ。下北沢のバーでバーテンダーを務め、2002年、六本木に開業して間もないレストラン「カシータ」に入る。2005年、移転とともに「カシータ青山本店」の店長を務める。2008年、業務拡大により総店長に就任。2014年、株式会社フラットスリーを設立する。2020年、「wine shop LUCY」「寿司ナチュール」を開業。


[吉岡 義裕]
1979年、新潟県に生まれ東京都日野市で育つ。プロレスラーを目指し、ジムに通いながら各種業態の飲食店でアルバイトをする。日本料理の料理人になるべく、渋谷の日本料理店と赤坂の料亭で各3年半修業を積む。白金台の八芳園に入り、8年勤務。園内の日本料理店副料理長として寿司会席に携わる。2020年、「寿司ナチュール」開業時より料理人を担当。



wine shop LUCY
寿司ナチュール 
東京都品川区西五反田7-3-7 TSTJ HOUSE

https://lucywine.jp
https://lucywine.jp/pages/sushi
https://www.instagram.com/wine_shop_lucy
https://www.instagram.com/sushi_nature