【メグロ アンジュール】店主のセレクトが光る ナチュラルワインと気の利いた料理、 パリ発から目黒発にシフト(後編)

【メグロ アンジュール】店主のセレクトが光る
ナチュラルワインと気の利いた料理、
パリ発から目黒発にシフト(後編)

2025.07.28



ー 帰国後、宮内さんは「ル・ヴェール・ヴォレ」の東京店を開き、のちに「メグロ アンジュール」と改名。その模様と、シェフの片平菜穂さんによる料理をご紹介する。

 

前編はこちらから



扱うワインは造り手の人柄で決める


2012年11月、「ル・ヴェール・ヴォレ・ア・トウキョウ」をオープン。酒販店の免許も開業と同時に取得した。内装はパリ在住のデザイナーに依頼し、赤い枠のワイン棚やビストロチェアなど、同店のアイコンとなるものを取り入れた。

奥に長い構造で、手前に20席ほどのダイニングがあり、両脇の壁にプレゼンテーション用のワインボトルが並ぶ。奥に8席のカウンターと厨房、温度管理されたワインセラーがある。

料理のメニューは宮内さんが黒板に記し、ワインリストは置かず、その日のグラスワイン数種類とおすすめのボトルを口頭で説明し、相談して決めるしくみだ。



「たとえば極端な話、お客さんの横に自分も座って、どのワインにするか話し合う。パリの店では普通のやり方を日本でも試してみたのですが、これは日本人には向いていなかったようで、やめました」

ワインはほとんどがフランス産で、約200種3,000本のナチュラルワインを揃える。生産者は100以上にのぼり、そのすべてを把握しているという。つい驚くと、宮内さんはこう語った。

「でも、友人や知人なら、それくらい覚えられますよね? ワインを選ぶ基準は造り手、テロワール、味です。何より大切なのは人で、会って、話して、一緒に食事をして、気持ちが通じ合える人なら、その人が造るワインはきっとおいしいはず。先に味や値段から入るものではないのです」

店内の壁のあちこちに手書きの文字がある。ナチュラルワイン生産者のサインやメッセージだ。フランス語が読める人は思わずにニヤリとしたり感心したり。読めなくても、多くの生産者が店を訪れ、友愛を示している様子が十分に伝わってくる。

「ナチュラルワインを日本に広めたパイオニアである『祥瑞』オーナー、故・勝山晋作さんを中心に、さまざまな分野の人が集まり、ナチュラルワインの祭典『FESTIVIN(フェスティヴァン)』が不定期に行われ、多くの生産者が来日しました。その際に当店にも寄ってくれて、頼んだわけではないのに勝手に書かれるようになり、どんどん増えていきました(笑)」

 

料理は旬を大切にシンプルに。山形出身の女性シェフ

これまでに何人か厨房のシェフが交代しており、その都度個性が反映されてきた。現在のシェフは2023年に着任した片平菜穂さんだ。実家は山形県で無農薬野菜の栽培や養豚を手がけていた。宮城県・仙台のレストランに15年勤務し、2023年、現職に就くため初めて東京暮らしになったという。ナチュラルワインは20歳の頃に知って興味を持ち、宮内さんとの出会いも以前、仙台で行われたナチュラルワインのイベント会場だった。

メニューはアラカルトで、ワインのつまみになるよう前菜が多め。旬の食材を生かし、その時期ならではの料理を心がけている。宮内さんは「女性らしい繊細な味」と評価する。

今回は「縄文食品」の穴子の開きと、「なごみ農産」の牛ランプ肉を使った料理を作っていただいた。



「穴子は炭酸水入りの軽い衣をつけてフリットにし、プリッとした弾力を引き立てました。牛ランプ肉は脂がくどくなく、食べ飽きない味。シンプルにステーキがいいですね」

つけ合わせの野菜は「農園Na Zemi」から。穴子には多種類の野菜を細かく刻んだサルサ を添えた。どこか片平さんの故郷・山形のだしを彷彿させる雰囲気だが、調味は塩、E.V.オリーブオイル、レモン汁だ。



牛ランプ肉には色鮮やかなビーツのピューレ。赤玉ねぎとシェリーヴィネガーで味に奥行きを出している。

 

トイレ掃除は店主の仕事

2017年に姉妹店の看板を外し、本当の意味で独立するため、「メグロ アンジュール」としてスタートした。アンジュールは「ある1日」を意味し、何気ない日常に憩える店というイメージや、「ドメーヌ・モス」で働いていた頃に住んでいたアンジュにもかけている。しかし宮内さんは、そうした由来よりも「ナチュラルワインのインポーター、ヴァンクールの故・池谷太輔前社長 に命名してもらったことが自分にとって大切」と語り、ここでもやはり“人とのつながり”がキーになっている。



ayameとコラボレートするきっかけになったフランス ジュラ産のヴィンテージメガネ。丁寧な手仕事の温かみを感じる質感が気に入っているとのこと。

ファッションにも自分らしさを貫く宮内さん。ユニフォームとして着ているのはパリのブランド「ANATOMICA(アナトミカ)」のヴィンテージリネンだ。2025年11月には国産メガネブランド「ayame(アヤメ)」とコラボし、アンジュールモデルが発売されるという。そうした店主のキャラクターは、店の空気に自然と表れる。かつて宮内さんがドレッドヘアの店主に惹かれたように、ここもまた波長の合う人たちが集まるのだろう。

「ナチュラルワインは、うんちくを語るとか、これじゃなきゃダメみたいなストイックなものではなく、リラックスして楽しく過ごすためのアイテムです。“今夜はまずハイボールを飲みたい気分”と言われれば、国産のクラフトジンで提供するのも全然アリです。お気軽にお越しください」

最後に、「あなたにとって“美味しい”飲食店とは?」の問いに、宮内さんは少し考えた後、店の奥の厨房脇の壁に書かれたワイン生産者 のメッセージを指差した。

 

上はブルゴーニュの造り手、今は亡きアンリ・フレデック・ロック氏(プリューレ・ロック)。
下はローヌの造り手、ルネ・ジャン・ダール氏(ダール・エ・リボ)。


On ne fait pas des métiers faciles mais que c'est agréable.
楽な仕事ではないけれど、とても楽しい。 

ICI, LE BONHEUR N'EST PAS VOLÉ.
IL EST DANS LES VERRES.    
ここでは幸せは盗まれない。
それはグラスの中にある。

上のメッセージは、どんなに大変でも「この仕事は楽しい」と言える人が従事している店ということだろう。
旧名のLe Verre Volé(ル・ヴェール・ヴォレ)は直訳すると「盗まれたグラス」で、下のメッセージはそれに引っかけたものだ。グラスの中の幸せとは、もちろんナチュラルワインのことだが、「それを安心して飲める場所」を示している。


ちなみに「店のトイレ掃除は店主の仕事、スタッフにはやらせません」と宮内さんは言う。店主の美学は細部に宿っている。

 

ライター 渡辺 由美子 / カメラマン 増永 彩子

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宮内 亮太郎/片平 菜穂

[宮内 亮太郎]
1975年、東京都生まれ。ホテルニューオータニ(東京)「トレーダーヴィックス 東京」に4年勤務し、サービスを担当。和菓子店の「三原堂」などを経て2004年に渡仏。日本料理店に2年勤務後、サヴォワのワイナリー「ジャン=イヴ・ペロン」に1カ月、ロワール「ドメーヌ・モス」で3カ月働く。2007年からパリ「ル・ヴェール・ヴォレ」に4年半勤務。2012年に帰国し、「ル・ヴェール・ヴォレ・ア・トウキョウ」を開業。2017年に「メグロ アンジュール」に店名を変更。

[片平 菜穂]
1986年、山形県生まれ。宮城県・仙台で多業態の飲食店を運営する会社に就職し、主に洋食店に15年勤務する。2023年より「メグロ アンジュール」の調理を担当。

メグロ アンジュール
東京都目黒区目黒4-10-7 栗原ビル1F
https://www.instagram.com/meguro_unjour

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