【Eme】武蔵小山に根付いて7年。 料理を通して  豊かなライフスタイルを提案する(後編)

【Eme】武蔵小山に根付いて7年。
料理を通して 豊かなライフスタイルを提案する(後編)

2025.06.20
 

ー フランス・バスク地方のシャルキュトリやニュージーランドの和食店、国内でも多種の業態で経験を積んだ武藤恭通さん。理想の店を作るための構想ノートを書き始めたのは2007年で、「Eme(エメ)」開業は2018年。ノートは数冊に及ぶという。

前編はこちらから

 

夢を実現するためのノート



フランスから帰国後、代官山「マダム・トキ」でスーシェフ(副料理長)を3年ほど務め、開業資金を貯めた(その後にフリーランスとなって物件探しを行う)。どんな店にしたいかは、渡仏前の「マルシェ・オー・ヴァン・ヤマダ」時代からノートに書き綴っていたという。

「店のコンセプトやサービススタイル、メニュー、内装、什器・備品などのハード面について。あるいは、こういうことしたくない、やってはいけないという自分に対する教訓めいたものや、一流のシェフたちや著名人の心に響く言葉など、店作りのヒントになるあらゆることを書いていますね。

有名シェフたちの言葉を書き込んだ“Logos &心得”のページが随所に見られるノート。メニュー案には細かいイラストも添えられている。


自分が漫然と考えていたことを言語化することで整理され、すべきことが見えてきたり、アイデアが浮かんできたりするし、何より夢が叶う可能性が高まるので、若い料理人にもおすすめしたいです。たとえば、自分の理想の店として、“緑、花が周りにある”“1段上る入り口”“アンティークで温かい雰囲気”などと書いていたことがすべて実現しているのですから」

フランスのサンタマンやベルギーのボッホ・フレール・ケラミスのアンティーク皿と、現代陶芸家の鈴木稔さんや久保田由希さん、紺野乃芙子さんなどの愛しい器たち。


初めて行ったフランスの蚤の市でアンティークの器やグラスに惹かれて以来、毎年のようにバカンスは現地に行き、いつか自分の店で生かそうと少しずつ買い集めてきた。さらにフランスだけでなく、ノスタルジックな昭和のノリタケ、フレンチとの相性が良い益子焼など現代の陶芸家による器も取り入れている。

「温故知新という考え方や、手仕事が好きなのです。そのため、古いものと現代のものを組み合わせて使い、また店内には物販のコーナーを設けて、オリジナルのバスクリネン製エプロン、お気に入りの調味料やナチュラルな香りのハンドソープなどを置いています。


ちょっと変わっていますか? 私は自分の店を“わが城”と思う感覚があまりなくて、料理だけを提供する場所とも思っていないのです。だから、ワイン賞味会や野菜の生産者を囲んでの食事会、陶芸家やフラワーデザイナーとのコラボレートなどのイベントも積極的に行っています。

さまざまな人とモノが交流する場として生かされるほうが、作り手もお客様も、みんな楽しいのではないでしょうか。少なくとも私は良い刺激を受けて、とても楽しいですよ(笑)」


食材選びや香りの技で日本人好みの味に



今回作っていただいた料理の1品目は看板料理の「アショアのパイ包み焼き」。アショア(AXOA)はバスクの郷土料理で、“刻んだもの”を意味する。挽き肉やピーマン、玉ねぎ、そしてバスク特有の唐辛子パウダー、ピマン・デスペレットが入った煮込みである。肉は仔牛肉が使われることが多いが、エメでは豚肉を使用し、少量の豚足と甘長唐辛子も加えている。コラーゲンが豊富な豚足は、肉のうま味やジューシーさを引き立てるうえ、脂ではないため重くならないという利点がある。ピマン・デスペレットはお好みで加減できるよう皿に添えている。

また、バスクではアショアに米やじゃがいもを添えるところを、パイ包みに仕立てた点が武藤さんオリジナルの手法だ。ドレ(パイ生地に卵をぬること)には、煮詰めたコーヒー液と卵黄を合わせたものを使うことで、味には影響せずに美しい焼き色がつくという。

「アショア、ガルビュール、ピペラード、ガトー・バスクなどのバスク料理を当店の特徴にする一方、クラシカルで正統なフランス料理の魅力も伝えたいという思いがあります。パイ包み料理はその代表的なものの一つですね。

ただ、牛フィレ肉にフォアグラ、キノコのデュクセルを包んだウェリントン風や、ジビエに重いソースなどは、コストと味わいどちらもかなりリッチで非日常すぎる。もっと手軽で、軽やかに食べられるパイ料理を冬だけでなく年間通して提供したいと思い、アショアを包み、鶏のジュのソースを添えたところ、ご好評をいただき、定番となりました。初来店の方には必ずおすすめしていますね」




もう1品は「金目鯛と野菜のポワレ」。金目鯛はグリラーで焼き上げ、きゅうり、ラディッシュ、カブなど各種野菜は下ゆでした後、フライパンでさっと焼きつけている。この野菜は埼玉県・小川町の有機農業「風の丘ファーム」で栽培されたものだ。「それぞれの個性がいきいきとしておいしい」と武藤さん。ソースはブール・ブランにムージャンユ(レモンに似た香りとわずかにピリッとした辛味のあるフレーバーオイル)とパセリオイルを加えている。

「バターを使っていても、香りの効果で軽やかな食後感になります。この料理に限らず、私にとって香りはキーポイント。フレッシュさを大切にしたいので、たとえばソースベースのフォンの香味野菜から出る甘味は、それを邪魔するため控えるなど、バランスに気をつけています」




〜aimer〜 愛ある店を目指して

 

家ではほとんど料理せず、もっぱら妻の手料理をワインと共に楽しむという武藤さん。休日は野菜やワインの生産者を訪問したり、そのついでに地元の銭湯に立ち寄ったり。ダンサーで古楽器奏者でもある妻と一緒に小劇場などの舞台を観に行くのも好きだそう。

気になる飲食店はジャンルを問わずに足を運ぶ。長く続いている店の秘訣も知りたいし、若い活気にあふれる店の魅力も知りたいしと、そのため“行きたい店リスト”は尽きない。あまり同じ店に何度も通うタイプではないそうだが、長野のフレンチ「渋温泉食堂gonki」はお気に入りで、これからも定期的に訪問したいとのことだ。 

さて、そろそろインタビューの終わりの時間が近づいてきたので、最後の質問。

—— あなたにとって"美味しい"飲食店とは?



「愛のある思いを伝え、それを受け取れる場所、ですね。食材やワインの生産者の思い、器や花、家具などの手仕事、サービス人のおもてなし、料理人の表現……すべての土台に愛があって、それが皿の上や空間にのせられている店。

そんな店は心から幸せや充足感を感じます。エメという店名はフランス語の“愛する”“好む”“大切にする”を意味するaimerの発音から取ったのですが、まさに、愛のある店を私は目指しています」

 


ライター 渡辺 由美子 / カメラマン 宇秋 智康

武藤 恭通

1979年、神奈川県横浜市生まれ。代官山「タブローズ」、ニュージーランドや台湾の日本料理店で経験を積む。横浜の洋菓子店、六本木「コジト」、広尾「マルシェ・オー・ヴァン・ヤマダ」のシェフを経て、2009年に渡仏。バスクのシャルキュティエ、ピエール・オテイザ氏の下で学び、ブルゴーニュ「メゾン・ラムロワーズ」等でも修業。11年に帰国し、代官山「マダム・トキ」のスーシェフを務め、18年5月に独立開業。

Eme エメ  
東京都品川区小山3-11-2 1F
https://eme-table.jp
https://www.instagram.com/eme_table/

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