器と料理のセオリーを知る、目利きが選ぶ“美しい器”とは

器と料理のセオリーを知る、目利きが選ぶ“美しい器”とは

2025.12.26

料理人にとって、器選びは調理の次にこだわるポイントかもしれない。

さまざまなサイズの器、カトラリー、グラス、ナプキンなど、ひとつひとつ選んだものたちが面となってその店の個性を表現し、心地よい空間を構成する。
器の良し悪しは一概には言えない。料理や空間との相性もあるだろう。
業務用のシンプルな量産品がカジュアルな料理の魅力を引き出すこともあれば、古伊万里の皿が刺身や焼いた野菜など素材そのものをハレの料理に見せることもあるし、飾り気のない器には作り込んだ料理よりも素朴なおにぎりが似合うこともある。


良い食材と同じように、「A RESTAURANT FOODS」では飲食店の魅力を引き出す器やポスターなども提案している。

今回ご紹介するのは、現代工芸を始め、生活に寄り添う古美術や絵画をセレクトしている「ラパンアート ギャラリー」だ。オーナーである坂本大さん・圭さん兄弟は、唐津の古い窯元をルーツとし、それぞれに現代美術ギャラリーや一級品を扱う古美術商で修業してきた。浮世絵や仏教美術といった和の古美術から、西洋アンティーク、近代工芸、コンテンポラリーアートまで、取り扱う品は幅広い。

Scroll ▶


「この業界は信頼が命。海外アートや骨董の価格の変動も、マーケットの流れも長く見てきました。日本にはオークションがたくさんありますが、18歳の頃から出入りしてきたので、商品を仕入れるコネクションを多く持っているのが強みです。また兄弟それぞれに得意分野があることからチャンネルが多く、テーブルウェアや絵画、家具のコーディネートから内装デザインまで、インテリアのディレクションを依頼されることも多いですね」


坂本兄弟に影響を与えた人の一人が、秦 秀雄だ。北大路魯山人が顧問を務めた高級料亭「星岡茶寮」の支配人であり、民藝運動の主唱者である柳 宗悦や美術評論家の青山二郎、文芸評論家の小林秀雄、白洲正子といった”伝説の眼利き“たちから信頼されていた人物である。

「骨董界ではよく知られた方で、秦 秀雄氏の御子息お二人には大変お世話になりました。そのご縁で、昨年は秦 耀一さんが主宰されていた『九谷青窯』(くたにせいよう)のデッドストックを展示販売。ストーリーのある器や小さなこだわりの大切さを、展示を通して伝えることができました」


Scroll ▶
秦 秀雄の息子である秦 耀一が、質の高い日常食器を手頃な価格で作ろうと1975年に始めた九谷青窯(2024年にクローズ)の初期のテストピース。
「九谷青窯といえば白磁や染付のイメージがありますが、こちらは70年代にテスト的に作られた麦藁手の大鉢です。九谷青窯は注文を受けてたくさんの数を卸していたので、サイズや焼き具合が安定しない土ものは作らなくなったんでしょうね。現地を訪れたときに、保管されていたものを見つけて仕入れました」

そんな「ラパンアート ギャラリー」が取り扱う器に共通しているのは、“理由がある美しさ”。といっても技巧を凝らした高級品に限るわけではなく、作為が感じられない民藝品や、ヴィンテージのバカラ、モダンな現代作家の陶磁器なども含まれる。

福岡、藤原宏允の白くすっきりとしたフォルムの器たち。

器は使ってこそ、その魅力がわかるというもの。料理を引き立てる器を選ぶために、坂本 大さんは常に口に当てるそうだ。なぜならば、日本の料理は器を手に持ち、口に当てて食すものが多い。手のひらに収まる感覚や口当たりも味に関わってくるのだ。

「上手な作り手の器は、口造り(飲み口や縁の成形)にストレスがないものが多いですね。単純に薄いか分厚いかではないので、買うときに口をつけさせてもらって選びます。でも例えば韓国料理は置いたまま食べる作法なので、器の口当たりは悪い。となると、安易に見立てて使うことは避けようとなります」

だからこそ背景や歴史などの文化を知っておくことが大切であり、そうした目利きから買うべきなのだ。それは自身の審美眼を磨くことにもつながる。

「王道をまず学ぶことには、やっぱり意味があるんですよ。昔からご飯茶碗の決まり寸法は4寸前後ですが、これは日本人の手の大きさに合わせたサイズであり、昔のお膳は茶碗、汁椀、主菜の器の3つがきっちりはまるようになっているんです。そのお膳のサイズは、古い建物の廊下をお膳を持った二人が並行して通れる寸法でもある。つまり、日本人の人体寸法から決まったサイズというわけです。
フランスの建築家、ル・コルビュジェもモデュロールという人体寸法の概念で窓や天井の高さを決めていましたが、そうした“理由”が心地よさにつながっているのだと思います」

器を選ぶときはデザインやサイズで選ぶことが多いかもしれないが、このようなセオリーを知っておくと見方が変わる。


福島、会津本郷焼の染付の蓋付き小鉢。
「小ぶりなご飯茶碗ですが、煮物などを盛っても素敵です。おそらく幕末、明治くらいのもので、素地は地元会津の土を使った素朴で力強い風合い。会津本郷焼は東北地方最古の窯場の一つで、有田の技術が導入されているのですが、これは有田焼にありそうでない、シンメトリックで垢抜けた雰囲気が魅力」

「民藝が“用の美”と言われる理由のひとつは、用途に準じた寸法取りだと思います。器も内装もすべて“なぜならば”という理由が大事なのですが、ちぐはぐなことが多い。それがピタッとハマると満足度が違うのです」

栃木県益子町で作陶を続ける傍ら、柳宗悦らと民藝運動を推進した濱田庄司。
「当時、バーナード・リーチとともにイギリスの古陶、スリップウェアを研究し、再現していた濱田。こちらは日本古来の家紋のような紋様と組み合わせたデザインで、いわゆる民藝よりは作家性が出ているように感じます。このミックス感のおかげで、和にも洋にも使いやすいはず」

日本をたびたび訪れ、民藝運動とも関わりが深いイギリスの陶芸家、バーナード・リーチ。彼が1920年に日本から帰英した際、同行した濱田庄司とともに築窯したのが、西洋で初めての登り窯である「リーチ工房」。こちらは料理やデザートを盛るのに使い勝手がよい小鉢。
「どちらも60年代頃の『リーチ工房』の小鉢で、側面の底にSt.Ives(セントアイヴス)の陶印が入っています」

暮らしの風景が好きだと話す坂本さん。以前、雑誌に取材された自宅の食卓の写真には、ミニマルなバカラのグラスに、やわらかな風合いの白い皿と使い込まれた木のスプーン、ラフなアメリカのバターナイフが写っていた。

「ちょっとノスタルジックな、ヴィンテージ感が好きなんです。華美ではない普通のものに、シャンパンのエチケットやフランスのバターのパッケージが組み合わさったときの風景がいいなあと思う。コンテンポラリーなアートも、品格のあるアンティークも入り混じった、その人ならではのミックス感が心地よいと感じるので、向田邦子の食卓のような感じも好きですね」


「ラパンアート」に並ぶ古物や作家の手による器は出合いものだが、古くて希少だから、一点ものだから、いいというわけではないのだ。

「丁寧に手入れされた古いものや、数をこなしている職人のろくろ仕事は、使い心地がいいということ。それは確かな技術力や、背景にある歴史、使ってきた人たちの愛情などに裏打ちされた価値。そうしたセグメントを整理したうえで、使う人のスタイルに合わせて提案していきたいと思っています」

ライター 藤井 志織 / カメラマン 下屋敷 和文

LAPIN ART GALLERY

唐津焼の陶芸家・中里重利(父は人間国宝の中里無庵)を祖父とする坂本大・圭兄弟が営むギャラリー。
現代美術、近代工芸、古美術を中心に、さまざまなジャンルの作品を取り扱う。時代やカテゴリーにとらわれず、「品格・清潔感・フレッシュ」をキーワードにした独自のセレクト。現代空間との調和を意識した提案や、背景に息づくカルチャーと共に紹介することを得意とし、暮らしに寄り添う骨董や絵画のコーディネートにも定評がある。

関連商品

Vintage flower vase (multi G)

Vintage flower vase (multi G)

¥248,600

Vintage flower vase (multi G)

Vintage flower vase (multi G)

¥14,850

Vintage flower vase (multi G)

Vintage flower vase (multi G)

¥14,850

Vintage flower vase (multi G)

Vintage flower vase (multi G)

¥49,800

Vintage flower vase (multi G)

Vintage flower vase (multi G)

¥24,800

Vintage flower vase (multi G)

Vintage flower vase (multi G)

¥24,800

Vintage flower vase (multi G)

Vintage flower vase (multi G)

¥24,800

Vintage flower vase (multi G)

Vintage flower vase (multi G)

¥24,800